古民家鑑定士より
香川県でも古材をについて教えてくださる方がいますよ‼️
古材を使い、別荘として移築再生した事例。玄関に配置した曲がった梁丸太や、リビングの中央に配した8寸の大黒柱が、家の歴史を伝える象徴に古材を使い、別荘として移築再生した事例。玄関に配置した曲がった梁丸太や、リビングの中央に配した8寸の大黒柱が、家の歴史を伝える象徴に
古民家鑑定士とは、古民家の調査・鑑定を行ない、コンディションを評価する専門家である。そうした古民家鑑定士のひとりで一級建築士の杉本龍一さん(47)にインタビューを行ない、前回記事では文化的な価値から古民家をみることや、古民家の構造に合った耐震診断・耐震補強を行なうことの重要性についてレポートした。今回のテーマは「古材の活用」である。
古材とはどんなものなのかというと、「私どもでは“築50年以上が経った、伝統構法または在来工法で建てられた古民家に用いられた国産木材”と定義しています」と、杉本さんは言う。「古民家は日本の貴重な伝統文化ですからそのまま残したいのですが、解体せざるを得ないケースもあります。解体すると、梁や柱などの解体材が出てきます。これら古材はそこに暮らしていた方の想いのこもったものでもありますから、大切に活用するための提案をしていくことも、私たち古民家鑑定士の重要な役割だと思っています」
通常、建物の解体材は廃材となる。それらは法律(建設リサイクル法)に沿って一定量はウッドチップや燃料などに加工されて再資源化されるのだが、廃棄されてしまうものも少なくない。そうした現状に対し、使用可能な古材については住宅の建材などへのリユース(再利用)を広めていきたいと杉本さんは話す。
木材は経年変化により強くなる
古民家鑑定士の杉本龍一さん。2014年秋までは大手住宅メーカーに勤め、一級建築士として古民家等の大規模リフォーム事業に従事。退職し、2014年12月に一般社団法人古民家再生協会東京を設立し、代表理事に。現在は東京をはじめ、全国各地に出向いて古民家再生活動にかかわっている古民家鑑定士の杉本龍一さん。2014年秋までは大手住宅メーカーに勤め、一級建築士として古民家等の大規模リフォーム事業に従事。退職し、2014年12月に一般社団法人古民家再生協会東京を設立し、代表理事に。現在は東京をはじめ、全国各地に出向いて古民家再生活動にかかわっている
古材の再利用には、古民家が建っているその場所で古材を用いて建て直す「現地再生」や、古材を別の場所に運搬して再生する「移築再生」の形がある。また、古民家に住んだ経験がないが、長い年月を経た古材の風合いに魅力を感じ、住宅のリフォームや新築、あるいは自ら経営する店舗に古材を取り入れるといった一般ユーザーによる再利用のケースも増えているという。
古材を再利用することは、古民家に使われていた伝統的な部材の有効活用になるほか、家の解体時に出る産業廃棄物を減らせるので、地球環境保全の面でも意義のあることだろう。ただ、一般ユーザーとして気になるのは、古材の強さである。強度はどうなのだろう?
「古い木材だから弱いということはありません。木は伐採されてから乾燥という工程を経て住宅の建材などに使用されるわけですが、古民家で使われている古材の多くは時間をかけて天然乾燥させ、木の特性を生かしながら強度を高めたものです。そして、その強度は年数の経過とともに増え続けます。木材には温度や湿度によって膨張したり、収縮したりする調湿機能があり、それによって強くなっていくのです。樹齢100年のヒノキの場合ですと、伐採されてから100年後が最も引っ張り強度・圧縮強度が増しているという研究結果もあります」
杉本さんの説明を聞き、筆者の頭に思い浮かんできたのは、奈良の法隆寺だ。現存する日本最古の木造建造物として知られる、法隆寺の五重塔は建築から約1300年を経た今も健在である。
新しい木材と比べても、古材の強度は劣ってはいないという。
「現在、住宅の建材として使われることが多いのは、130℃近くの高温で強制的に乾燥させた強制乾燥材です。短時間で強度を高めることができ、反りや表面の割れなどがなくなって加工しやすいという利点はありますが、樹脂まで染み出してしまい、木の弾力性や艶がなくなってしまいます。その結果、木材の強度を保つ調湿機能が弱くなってしまうという一面があるのです」
使用できる古材なのかどうか、見きわめることが重要
古材は、室内の家具やインテリアにも再利用できる。写真の事例は、開口部を変更する際、壁にしてしまわずに、斜めに古材を配置して棚板を置くことで空間を演出古材は、室内の家具やインテリアにも再利用できる。写真の事例は、開口部を変更する際、壁にしてしまわずに、斜めに古材を配置して棚板を置くことで空間を演出
古材は長い年月を経てもなお、強度があることはわかった。が、すべての古材が建材として再利用が可能なわけではない。木材だから湿気などの影響で腐ったり、傷んでしまうという弱点がある。
「見た目ではわからないケースが多く、使える木なのかどうかは私たち古民家鑑定士が見きわめる必要があります。判断の基準はいくつかありますが、まず行なうのは木槌で木の表面を叩いてみて音で判断すること。中身が詰まっているときはコンコンといういい音がしますが、傷みが進んでいて中身がスカスカのときは音が響いてきません。明らかに違います。また、細いドリルで小さな穴をあけてみて、その抵抗値で中身が詰まっているかどうか、虫食いがあるのかどうか、判断するやり方もあります」
また、使えると判定された古材のなかにも、住宅の構造材として使えるものもあればそうでないものもあるという。
「日本古来の伝統構法で建てられた古民家は、金物に頼らずに木材同士を組む木組みの家です。柱や梁などの構造部材は“ほぞ”という凸型の穴などに通して結合させているのですが、ほぞ穴による断面欠損が大きいものは、構造材には適していないのです」
とはいえ、ほぞ穴が多いから再利用できない木材ということではないようだ。断面欠損の状況にもよるのだが、ほぞ穴に他の同じような材質の木材を埋め込んで“埋め木”という補修を行なえば、構造材として再利用が可能になったり、内装材や外装材として再利用することもできるという。「また、ほぞ穴をあえてそのまま活かし、インテリア製品などに再利用するケースもあります。ほぞ穴はデザイン的なアクセントになりますから」と、杉本さんは言う。
古材を取り入れて住宅を建てると、費用はどうなのか?
洋風建築にも古材は活用できる。写真はモノトーンでまとめたインテリアに古材をアクセント的に取り入れた事例洋風建築にも古材は活用できる。写真はモノトーンでまとめたインテリアに古材をアクセント的に取り入れた事例
では、一般ユーザーが古材を再利用して住宅を建てると、費用面ではどうなるのだろう? 古材を使えば安くなるのではと思いがちだが、そうではないようだ。通常の新築住宅を建てるよりも高くなるという。古材洗いや運搬などの費用が発生するうえ、多くは新しい木材と組み合わせて使うので、新材の標準的な寸法や重量とは異なる古材をどう取り入れるか、構造計算など設計・建築に高い技術を要するからなのだ。
「確かに費用は少し高くなるかもしれません。でも、家とそこに住んできた人たちや、町並みの歴史を見守ってきた古材を再利用し、再び命を吹き込むということには大きな価値があると思います。ちょっと語弊のある言い方になるかもしれないのですが、私自身、以前、住宅メーカーで大規模リフォームにかかわっていた経験から感じているのは、一般的に構造材よりも什器やシステムキッチンにお金をかける傾向があるということ。それはそれで一概に否定はできませんが、システムキッチンは100年もつものではありません。でも、家の木材は100年先でも生き続けます。家の構造材にどういう木材を使うのか、考えてみてもいいのではないでしょうか」
古材、そして木材について真摯に語る杉本さん。古材の再利用をさらに進めていくために全国の古民家鑑定士のネットワークと連携し、古材を大切に使ってくれる人に譲りたいと希望している古民家オーナーと、家づくりに古材を求めているユーザーとのマッチングをはかっていきたいという。
「私たちには、古材を買い取る材木店や工務店のネットワークがありますので、それを活かしていければと思っています。ただ、古材の流通市場はまだまだこれからだと感じています。古材に興味をもつ一般ユーザーが少しずつ増えているのに対し、供給できる古材が不足しているのではと。その理由として考えられるのは、古材をストックする場所の問題もあって、古材を扱う材木店が少ないことが挙げられます。そして、古民家にお住まいの方が古材の価値に気づかれないまま解体やリフォームで廃棄されてしまうケースが多いという状況もあります」と、杉本さん。まずは古材の専門知識をもった古材鑑定士(資格の認定団体は一般社団法人住まい教育推進協会)の人材育成のサポートもしていきたいと話している。
古材の再利用が、住宅のリフォームや新築の際の選択肢として定着するまでには時間がかかるかもしれないが、古民家という日本の伝統文化継承のひとつの形として今後に期待したい。
☆取材協力
一般社団法人古民家再生協会東京
http://www.kominka-tokyo.org